ロープアクセス

大規模修繕の環境対策|塗料飛散・臭気・騒音・産業廃棄物の実務

大規模修繕の環境対策|塗料飛散・臭気・騒音・産業廃棄物の実務

マンションやビルの大規模修繕工事を計画する際、多くの管理組合やオーナー様が真っ先に気にされるのは「費用」と「工期」です。しかし実際に工事が始まってから最もクレームや近隣トラブルの原因になりやすいのは、塗料の飛散、シンナー臭、高圧洗浄の騒音、そして工事で発生する廃材の処理といった環境面の問題です。これらは見積書の中では目立たない項目ですが、対応を誤ると工事の中断や損害賠償、近隣住民との長期的な関係悪化につながります。

本記事では、大規模修繕工事で発生する環境負荷の種類と、それぞれに対する具体的な対策、さらに足場工法とロープアクセス工法で環境対策がどう変わるのかを、発注者の立場から知っておくべき視点で整理します。契約前のチェックポイントとしてお役立てください。

大規模修繕工事で発生する4つの環境負荷

大規模修繕工事における環境負荷は、大きく4つに分類できます。

第一に塗料や洗浄水の飛散です。外壁塗装では塗料のミストが風に乗って飛散し、高圧洗浄では汚れを含んだ水が周囲に飛び散ります。これらが近隣の車両や洗濯物、隣地の建物に付着すると、原状回復費用を負担することになります。

第二に揮発性有機化合物(VOC)による臭気です。溶剤系の塗料やシーリング材、防水材にはシンナーなどの有機溶剤が含まれており、独特の刺激臭を発します。VOCとは常温で気体になりやすい有機化合物の総称で、大気汚染や健康被害の原因物質として法規制の対象になっています。

第三に騒音と振動です。高圧洗浄機の稼働音、タイルの打診調査で使うハンマーの打音、電動工具のはつり音、足場の組立解体時の金属音などが該当します。

第四に産業廃棄物の発生です。古いシーリング材、剥がした防水層、タイルやモルタルのガラ、使用済みの養生材、塗料の空き缶などが工事のたびに大量に発生します。

これら4つはいずれも法令による規制があり、発注者側にも一定の関与が求められる領域です。

塗料飛散を防ぐ養生の実務と限界

塗料の飛散対策の基本は養生(ようじょう)です。養生とは、塗料が付いてはいけない部分をビニールシートやマスカー(テープとフィルムが一体になった養生材)で覆う作業を指します。

足場工法の場合、建物全体をメッシュシートで囲うことで大部分の飛散を防ぎます。ただしメッシュシートには目の粗さがあり、風が強い日には微細な塗料ミストが外部へ抜けてしまいます。より飛散を抑えるには目の細かいシートを使用しますが、その分、建物内部の採光と通風が犠牲になります。

飛散事故で最も多いのは車両への塗料付着です。塗装中のマンション周辺に駐車されていた車のボンネットに白い粒が点々と付着し、専門業者による研磨作業が必要になったというケースは珍しくありません。1台あたり数万円から十数万円の補償となり、複数台に及べば工事の利益が吹き飛ぶ規模になります。

対策としては、工事着手前に管理組合を通じて居住者へ駐車位置の変更を依頼する、隣接する月極駐車場のオーナーへ事前挨拶を行う、といった段取りが有効です。施工会社が近隣調査をどこまで丁寧に行うかは、契約前の打ち合わせで必ず確認すべきポイントです。

なお、吹き付け塗装(スプレーガンで霧状に塗る工法)は飛散リスクが最も高いため、住宅密集地ではローラー塗装に変更する判断がよく行われます。

VOC臭気への対応と低臭型材料の選択

シンナー臭は、居住しながら工事を進めるマンションで最も苦情が多い項目のひとつです。特に開口部を養生で塞がれた状態では室内に臭気がこもりやすく、化学物質に敏感な方や小さなお子様、高齢者のいる世帯では体調不良の訴えにつながることもあります。

根本的な対策は材料の選定です。近年は塗料メーカー各社が水性塗料や弱溶剤系塗料、低VOC型の製品を充実させています。水性塗料は水を希釈剤に使うため臭気がほとんどなく、施工中の環境負荷を大幅に低減できます。かつては耐久性で溶剤系に劣るとされていましたが、現在の高性能水性シリコン塗料や水性フッ素塗料は、溶剤系と遜色ない耐候性を実現しています。

ただし、鉄部の塗装や、下地の状態が悪い箇所の下塗り材など、溶剤系でなければ十分な密着が得られない部位も残ります。見積もり段階で「臭気に配慮した材料選定が可能か」を施工会社に確認し、可能な範囲での水性化を提案してもらうとよいでしょう。

施工面での配慮も重要です。臭気の強い作業を行う日時を事前に告知する、在宅者が少ない時間帯に集中させる、作業後は速やかに換気時間を確保する、といった運用で体感的な負担は大きく変わります。

騒音・振動と法規制の基礎知識

建設工事の騒音については、騒音規制法および各自治体の条例によって規制基準が定められています。くい打機やさく岩機など指定された「特定建設作業」を行う場合は、市区町村への届出が必要となり、作業時間帯(多くの地域で午前7時から午後7時など)や連続作業日数に制限がかかります。

大規模修繕でよく問題になるのは、コンクリートのはつり作業(劣化部分を削り取る作業)と高圧洗浄です。はつり作業は電動ブレーカーを使うため振動を伴い、建物内部にも響きます。

対策としては、低騒音型・低振動型の建設機械を使用する、防音シートを併用する、早朝・夜間を避ける、といった方法があります。在宅ワークが定着した現在では、平日日中も「静かな時間」を求める居住者が増えており、従来より丁寧な工程告知が必要になっています。作業内容ごとに「今週はどの面でどんな音が出るか」を掲示するなど、情報提供の質が住民満足度を左右します。

産業廃棄物の適正処理とマニフェスト制度

大規模修繕工事で発生する廃材は、建設廃棄物(産業廃棄物)として法令に基づく適正処理が義務づけられています。根拠法は廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)です。

ここで重要なのが排出事業者責任という考え方です。建設工事で発生した廃棄物については、原則として元請業者が排出事業者となり、処理の最終責任を負います。しかし不法投棄などが発覚した場合、発注者が処理費用を不当に安く設定していた、あるいは適正処理の確認を怠っていたと判断されれば、発注者側にも措置命令が及ぶ可能性があります

適正処理を担保する仕組みがマニフェスト(産業廃棄物管理票)制度です。マニフェストとは、廃棄物の種類・数量・運搬業者・処分業者などを記載した伝票で、排出から最終処分までの流れを追跡するために発行されます。現在は電子マニフェスト(JWNET)の利用が普及しています。

発注者としては、契約時に「産業廃棄物のマニフェスト写しを竣工時に提出すること」を仕様書に明記しておくことをおすすめします。提出を求めても難色を示す業者は、処理ルートに何らかの問題を抱えている可能性があります。

アスベスト含有建材の飛散防止

環境対策の中でも特に重大なのが、アスベスト(石綿)への対応です。2006年以前に施工された建物では、外壁の仕上塗材や下地調整材、屋上防水の一部などにアスベストが含有されている可能性があります。

2021年4月の大気汚染防止法改正、および2022年4月からの事前調査結果の報告義務化により、一定規模以上の解体・改修工事では有資格者による事前調査と、都道府県等への電子報告が必須となりました。アスベスト含有が判明した場合は、レベルに応じた飛散防止措置(隔離養生、負圧除じん装置、湿潤化など)を講じたうえで作業を行う必要があります。

事前調査を省略したり、含有を知りながら通常工法で施工したりすることは、居住者と作業員の双方を危険にさらす重大な法令違反です。見積もりが極端に安い業者の中には、この調査費用や対策費用を計上していないケースがあります。見積書に「石綿事前調査費」「石綿含有建材処理費」といった項目があるかを必ず確認してください。

ロープアクセス工法がもたらす環境負荷の低減

ここまで述べた環境対策は、工法の選択によっても大きく変わります。無足場工法であるロープアクセス工法には、環境負荷の面で次のような特徴があります。

廃棄物量の削減という点では、足場の設置に伴うメッシュシートや養生材、結束バンドなどの大量消費が発生しません。建物全体を覆う仮設資材が不要になるため、工事全体で発生する廃棄物の総量を抑えられます。

騒音の低減も大きな利点です。足場の組立と解体は、鋼管や踏板を扱うため金属音が連日続き、期間中の騒音源として無視できません。ロープアクセスではこの工程自体が存在しないため、工事期間中の騒音発生日数そのものが減少します。

輸送に伴う負荷も異なります。足場材の搬入出には大型トラックが何往復も必要で、道路の一時占用や交通への影響、輸送時のCO2排出を伴います。ロープアクセスは機材が軽量かつコンパクトなため、こうした負荷が小さく抑えられます。

居住環境の維持という観点でも差が出ます。足場とメッシュシートで建物を覆うと、採光・通風が長期間制限され、洗濯物が干せない、窓が開けられないといった不自由が生じます。臭気がこもりやすくなるのもこのためです。ロープアクセスは必要な箇所に必要な期間だけ作業員が降下するため、建物全体を長期間覆い続ける必要がありません

一方で、ロープアクセスにも配慮すべき点はあります。建物全体を覆うシートがないぶん、塗料飛散に対しては作業箇所ごとの局所養生を丁寧に行う必要があり、風速の管理基準もより厳格な運用が求められます。ここは施工会社の技術力と管理体制が問われる部分です。

工法の組み合わせで環境負荷を最適化する

すべての建物でロープアクセスが最適というわけではありません。低層部で作業量が多い建物や、バルコニー内部の作業が中心の場合は、足場のほうが効率的なこともあります。

そこで有効なのが、足場とロープアクセスを組み合わせたハイブリッド工法です。たとえば作業量の多い低層階や共用廊下側には足場を設置し、隣地との離隔が取れない面や高層部はロープアクセスで対応する。この組み合わせにより、仮設資材の使用量を必要最小限に抑えながら、施工品質と工期を両立させることができます。

環境対策は「工事のついでに気をつけること」ではなく、工法選定の段階から設計すべきテーマです。見積比較の際には、金額だけでなく、養生計画・材料の臭気特性・廃棄物処理計画・アスベスト調査の有無といった項目が明示されているかを確認してください。

まとめ

大規模修繕工事における環境対策は、塗料飛散、VOC臭気、騒音振動、産業廃棄物、アスベストという5つの論点に整理できます。いずれも法令上の要求があり、対応を怠れば近隣トラブルや行政指導、場合によっては発注者責任の追及にまで発展します。

発注者として押さえておくべき実務上のポイントは次のとおりです。飛散対策として近隣への事前調査と駐車場対応の計画があるか。臭気対策として水性塗料など低VOC材料の採用可能性が検討されているか。騒音の出る作業について工程告知の運用が決まっているか。産業廃棄物のマニフェスト写しを竣工時に受け取れる契約になっているか。そしてアスベスト事前調査の費用が見積もりに計上されているか。この5点を契約前に確認するだけで、工事中のトラブルは大きく減らせます。

さらに、工法選択そのものが環境負荷を左右します。無足場工法であるロープアクセスは、仮設資材と廃棄物、騒音発生日数、輸送負荷を抑えながら、居住者の生活環境への影響も小さくできる選択肢です。建物の形状と工事内容に応じて、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの中から最適な組み合わせを検討することが、コストと環境と品質のバランスを取る鍵となります。


株式会社明誠について

株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門に手がける建設会社です。当社の最大の強みは、従来の足場工法、無足場工法であるロープアクセス工法、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つの工法から、建物ごとに最適な工法をご提案できる、日本でも数少ない会社であるという点です。

ロープアクセスにおいては、日本で初めてのフランチャイズ展開も行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など各分野の専門職が加盟していることで、高品質かつ低価格な工事の提供を可能にしています。

また、徹底した安全管理体制のもと、国際基準に準拠した機材と高度な訓練を受けた専門技術者によって、業界トップクラスの安全性を実現しています。「安全第一」を企業理念に掲げ、お客様の建物とそこに住まう・働く方々の安心を守りながら、最高品質の修繕工事をお届けすることをお約束いたします。

大規模修繕工事をご検討の個人オーナー様・法人様は、ぜひ一度、株式会社明誠までお気軽にご相談ください。建物の状態を丁寧に診断し、最適な工法とプランをご提案させていただきます。

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